明日が終わる、その時まで【完】
そういえば昨日、私たちがたくさんごはんを食べている横で、おばあちゃんは一口も食べていなかった。
『朝たくさん食べたからいいんだよ』と言って。
夜ごはんも、作っているときにいっぱいつまんだからって食べていなかった。
お腹いっぱいだから食べなかったんじゃなくて、気持ち悪くて食べられなかったってこと?
「そんな……なんでっ……」
「柴田っ」
その場に崩れ落ちるように座り込んだ柴田にすぐに駆け寄る。
柴田の目が、また暗闇に包まれる。
「最善を尽くしたが、残念ながらもうできることはない」
「そんなっ!」
いつの間にか私の目に涙が溢れていて、お医者さんの顔がぼやけて見える。
「柴田さんは個室に移している。まだ意識があるうちに会いに行きなさい」
「……できねえよ」
柴田は床をじっと見つめながらお医者さんの言葉を拒否する。
「このまま時間が経てば、やがて意識もなくなって、意思疎通ができなくなる。ただ、心臓が動いているだけになるんだ」
お医者さんはただ柴田を脅しているわけではなく、早くしないと最後の別れができなくなることを伝えたいのだ。
「2階の面会室Aだ。急ぎなさい」
柴田と私を残して、お医者さんは手術室に戻っていった。