明日が終わる、その時まで【完】
「柴田、急ごう」
柴田の腕を掴んで引っ張り上げるも、気の抜けた柴田の体は重くて、私の力では柴田を引っ張ることはできない。
「柴田っ!」
「……ばあちゃん、死ぬんだろ? 会えねえよ」
俯いたまま、聞いたこともないほど弱弱しい声を出す。
柴田は一度、この世で最も大切な人を失っているから……また大切な人の死を受け入れることが怖いのだ。
柴田、わかるよ。
大切な人を失うのは、自分の肉体と精神を引き裂かれるような痛みだってこと。
私も、わかるんだ。
その後、楽しいことや幸せな時間があっても、決して忘れることができない傷みだってこと。
どんなに時が流れても、この胸に刻まれた悲しみは完全に癒えないってこと。
でもね、柴田。
「最後にちゃんとお別れができるって、こんな幸せなことなくない?」
事故死や自死の場合、きちんとお別れすることもできずに、家族は遺体と対面しなければならない。
だからこそ、残された家族はいつまでも死を受けれることができず、時が止まってしまう――お母さんを亡くした、柴田のように。
病死は、容態によっては、ちゃんとお別れの言葉を交わすこともできる。
気持ちを伝えることができる。気持ちを受け取ることもできる。
「おばあちゃんに、伝えようよ。言おうよ……言ってよ……ずっと、変わらず愛してくれてありがとうって」
「ッ……ッ……クッ」
柴田の俯く先に、ぽたぽたと水滴が落ちる。
私はもう一度柴田の腕を思いきり引っ張った。
すると、柴田の体が起き上がる。
私の馬鹿力ではない。柴田が自分の力で、立ち上がったのだ。
「今ならまだ間に合う。行こう柴田っ」
「ああっ」
私と柴田は2階の面会室Aまで走った。