明日が終わる、その時まで【完】
お父さんは佳代子さんの迫力に圧倒されたのか、それとも、自分が間違っていたことに気づいたのか、改めて柴田に向き直って、
「……怒ってすまなかった」
福沢くんの言う通り、強面で屈強そうなお父さんが――体を折って、柴田に深く頭を下げた。
「……別に」
「それから……おふくろの最期看取ってくれて、ありがとう」
「……ああ」
柴田はお父さんと目を合わせることなく、短い返事をするだけだった。
「胃がんだったんだってな」
「……ああ」
「痩せてただろ」
「……ああ」
「最期、意識はあったのか」
「……ああ」
「そうか。じゃあ、喋れたんだな」
「……ああ」
柴田、さっきから「ああ」しか言ってないじゃん。
ちゃんと喋ればいいものを。男同士ってこうなのかな?
「おふくろ、なんか言ってたか?」
「……言ってた」
そこで初めて柴田が「ああ」以外の言葉を返した。
「親父のことは……ずっと大切な一人息子だって」
「……そうか……そうか……」
おばあちゃんは本当に大切そうに言ってたね。
「それと、佳代子さんのことも……」
「えっ、私? 私のこともっ? お母さんなんて言ってたの?」
柴田……?
「佳代子さんが嫁にきてくれて嬉しかったって」
「……っ……っっ………………お母、さんっ……ううっ」
佳代子さんは、両手で顔を覆って泣き崩れた。
声を上げて泣き続ける佳代子さんの肩を、お父さんは後ろでさすってあげていた。
私はうとうとしながら、安心していた。
おばあちゃんの死に際、「家の中にいることが辛いと思ったことはない」と言った言葉が、おばあちゃんを安心させるための嘘ではないことが、たった今、はっきりしたから。
あーだめだ。
眠い。ねーむい。
もう無理、落ちる。おやすみなさい――