明日が終わる、その時まで【完】


「パパと約束してからは、勉強はほどほどでいいかなって。まあ、普通に頑張るけどね」

「……お父さんがそう言いたくなる気持ち、私わかる」

「えっ?」

「晶ちゃん、人のことになると自分のこと(かえり)みないところあるもん。ちょっと危ないくらいに」

「いやいや、別にそんなことないよ。小春、私のこと買いかぶりすぎ」


結構冷たいとこあるし。

楠田くんとか、亜美とか梨花とか、人を傷つけてきた人には、結構容赦ないところあるけど。


「そんなことない。私たち、何年一緒にいると思ってるの?」

「えっと、幼稚園から一緒だから、もう10年以上か」

「幼稚園のとき」

「ん?」

「私の名札が公園の池に落ちちゃった時、ちゅうちょすることなく池に飛び込んだり」

「あー……あははは」

「小学校1年生の時、私がにわとりの飼育小屋の前で男子にいじめられていたら、二階の窓から飛び降りて助けに来たり」

「ほら、あの時はさ、近くにちょうどいい木が合ったから」

「4年生のとき、登山遠足で猪が襲ってきたときも。私の足がすくんで動けなくなっている中、私をおぶって一緒に逃げてくれた」

「担任の佐藤先生は一目散に一人で逃げたよね」

「晶ちゃんはいつもそう。もっと、自分の命を大切にしてよ。もっと自分を優先して」


小春がいつになく真剣な顔をする。

その顔は、少し怒っているようにも見える。

「うーん……してるんだよね」

「してない」

「してるの」

「してないよっ」

「してるって……自分がしたいことを優先してえうの。私はいつだって、自分がしたいと思うことをしてる。私がそうしたいから、全部、自分のためなんだよ。結局」


勉強もママのため、パパのためって当時は思っていたけど。

今思えば自分のためだ。

ママが喜ぶかな? パパが喜ぶかな? 

頭の良い子だって、周りから思われたら誇らしいかな? 

パパの嬉しそうな顔が見たいなって。


私が、パパの笑顔を見たい。

小春のことも、私が小春に「晶ちゃんありがとう」って言われたい。


喜ぶ顔が見たい。褒められたい。きっと、その気持ちを受け取ることが、私にとって最高のご褒美なのだろう。


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