明日が終わる、その時まで【完】
10年近く前のここら周辺は、今ほど10階以上のマンションは建っていなかった。
そして、こんなにも広いバルコニーがあるのは、このマンションくらいだった。
下から光が見えた時、その光が、小春との会話でカメラの光だと確信したとき、私はある仮説を立てた。
【もしも、他人の生活を覗き見る、けしからん趣味を持つ人間がいたとしたら?】
あり得ない話じゃない。
実際に、盗撮や盗聴を好んでいる人間は日本にも世界にも数多く存在する。
もちろん犯罪だから、あってはならないことだけど、そういうマニアが近くにいたら?
そして、そのマニアのターゲットが、柴田が住んでいたマンションの住人たちだとしたら?
何年も前からずっと、その趣味を楽しんでいたとしたら?
柴田のお母さんが亡くなった日もカメラを回していたら?
真実が証拠として残っているかもしれない。
そんな可能性が1%でもあるんじゃないかって思って、先週、屋上で柴田に協力してもらったのだ。
あの後、私と柴田はすぐにお父さんが勤務する警察署へ向かった。
お昼休憩のために署に戻っていたお父さんに、こんな時間に制服で~と、叱られながらも、私の想像をすぐに確認してほしくて、柴田のスマホを提出した。
最初こそお父さんは真面目に取り合ってくれなかったけど、念のために、高性能のパソコンでスマホに映った映像を見ると――お父さんの目の色が変わった。
〈お父さん〉から、一人の〈刑事〉の目になった。
映っていたのだ。
柴田のスマホに。
カメラを覗き込む男の姿が、はっきりと。
最初は三脚に置いたカメラを覗いていたが、すぐにカメラを手に取る男。
映像を拡大して見えた男のカメラのレンズには、私たちがいたマンションがはっきりと映っていた。
ここからは警察の仕事だとその日は帰された。