明日が終わる、その時まで【完】
「これっ、この女性を拡大できるか?」
「やってみます!」
お父さんの指示で、榎本は画面に映るお母さんを拡大した。
映像をマンション全体からお母さんに絞ったことで、さっきよりもはっきりと女性の顔が映った。
髪はセミロングで、色白の綺麗な女性だ。
桜色のエプロンを付けている。
バルコニーに置かれた手は細くて、とても華奢な人だった。
「……お前、この映像を見たことは?」
お父さんが榎本に尋ねる。
「ないです。この頃からは、もうただ撮り溜めるだけになっていたので、見返すことはなかったです」
「そうか。じゃあ、ちょっとベッドに座って漫画でも読んでろ」
榎本の返事を聞いて、お父さんはいったん映像を止めた。
「えっ? いや、でも」
「いいから。寝てていいから、こっち見るなよ」
「あ、はあ……」
この先の未来を知っているからか、お父さんは榎本を席から外した。
人が死ぬ瞬間を見せないための榎本への優しさなのか。それとも、最愛の妻の死ぬ瞬間を他人に見せないという妻への優しさなのか。
どっちもかもしれない。
「晶ちゃんは、いいのか」
「はい。覚悟できてますから」
私は迷いのない目でお父さんを見た。
「そうか」
それならもう何も言わないと、お父さんが頷く。
「大吾」
「平気だ」
「……わかった」
お父さんは、私と大吾に最後の確認をして、映像の続きを再生した。