明日が終わる、その時まで【完】
「柴田、大丈夫?」
私と柴田は警察署の中にいた。
目を真っ赤に腫らした柴田は、さっきよりもだいぶ落ち着いた様子に見える。
泣き続けて疲れたのか、ソファでぐったりしていた。
私が差し出したホットレモネードを一口飲んで、「はあっ」とため息をこぼす。
「……母さんの葬式でも、こんな涙出なかったのに」
泣きすぎて体力を消耗したせいか、柴田の声はとても小さい。
「お前のせいだ」
「えっ?」
柴田が前に立つ私を睨む。
「……警察が捜査したのに、母さんが自殺したことをお前が信じないから。お前が調べようって言うから……お前が無茶なことをするから……全部お前がっ……お前がっ……お前のせいで」
ようやくおさまったと思ったら、柴田の目に、また涙が浮かぶ。
私は柴田の頭を優しく撫でる。
ポンを撫でるように、優しく、優しく。
そして、そっと胸に抱き寄せて、柴田を抱きしめた。
「……ありがとっ……佐野っ……ありがとうっ……本当の母さんを、見せてくれてっ。母さんをずっと、信じてくれてっ」
柴田の腕が私の腰にまわる。
「柴田が教えてくれたからだよ」
「ッ……ッ……」
「柴田から聞いたお母さんは、柴田を置いていくような人には思えなかったんだ」
心の弱さは誰にでもある。
病気を患っていない人間でも、ふと、「もう死んじゃいたいな」って思ってしまうくらい、心が弱くなってしまう時もある。
自死は目の前の苦しみから解放される手段の一つ。
だけど同時に――大切な人を深く傷つける手段でもある。とても長い時間、家族を苦しめる手段でもある。愛する人を愛せなくなる手段でもある。愛してくれた人の心を壊す手段でもある。残された人間に、無力感、罪悪感、孤独感を与え続ける手段でもある。