明日が終わる、その時まで【完】



「やっぱりそうか」


お父さんが納得したように頷いた。



「……母さんが死ぬ前の週に、永久歯が抜けたんだ。下の歯だった」


柴田の声が段々と震えていく。


「それ持って、今度ばあちゃん家に行くから、一緒に屋根に投げようって……それまで、母さんが大切に持っておくからって……それで、そんなもの落としたからってっ……そんなもののせいでっ!」


「そんなものじゃないよ」


「そんなものだろっ!? ただの歯だぞっ? そんなもののせいで母さんはっ……クソッ!」


柴田が声を荒げる。


「大吾、落ち着けっ」


お父さんが柴田の右肩を掴んで(なだ)める。

柴田は苦虫を嚙み潰したよう顔で、床を見下ろしていた。



「……ただの歯だけど、お母さんにとってはただの歯じゃなかったんだよ」


「ただの歯だろっ」


柴田が吐き捨てる。



「ねえ柴田、なんで抜けた乳歯を投げるか知ってる?」

「そういう文化だからだろ」

「投げやりにならないで。落ち着いて、ちゃんと聞いて」



お父さんが掴んでいない右側の腕を、私もぎゅっと掴んだ。

私とお父さんで挟んで、柴田の心に寄り添う。



「……わかってる。わかってる。ちゃんと聞く」



少しずつ、柴田の表情が落ち着いていくのを見て、私は話の続きをした。



「上の乳歯が抜けると地面に、下の乳歯が抜けると屋根の上に投げる。永久歯の生える方向に歯を投げることで、健やかな歯が生えてくるように……っていう、昔からのおまじないなんだよ。古くから、親が子の成長を願う、おまじない」


私もパパと一緒にやった。


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