明日が終わる、その時まで【完】
柴田のお母さんを偲ぶ会。ぜひとも、参加させてほしい。
ということで、約束の12時に間に合うように身支度をして、駅前でお花と焼き菓子の詰め合わせを買って、柴田の家へと歩いていた。
――……
ちょっと寄り道をしてしまったせいで、予定よりも時間がかかってしまった。
だけど、あともう少しで、可愛らしい家が見えてくる。
「あっ」
門扉の前に、ブルーのデニムと黒のトレーナーを着た柴田が立っていた。
右手に持ったスマホをじっと見つめていて、まだ私の存在に気づいていない。
こうやって見ると、初めて会ったときのトゲトゲしい雰囲気がほとんど、というかほぼ消えている。
今は、遠目からでも、穏やかで落ち着いた雰囲気を感じる。
すると、柴田の顔がゆっくりと動いて、私の姿をとらえた。
「……おせーよ」
私を睨みながら、近づいてくる。
これまでに、何度柴田に睨まれたかわからない。
柴田の気に障ることを幾度となくして、そのたびに、苛立ちを露わにした瞳で睨まれて。
今だってそうだ。
でも、以前と今とでは私を映す目が違う。
初めて会った頃は、底が見えないほど深い悲しみに支配された目だった。
私を見ているのに、私を映していない。
だから、私の心も、言葉も、何も響いていなかった。
他人の心を拒んで、自分の心さえも否定していた。
だけど、今私の目の前にいる柴田は、深い悲しみをちゃんと自分の両手で抱えている。
辛かったことも、苦しかったことも、悲しかったことも、悔しかったことも。
心の中から無理やり消したり、見えないように隠したりせずに、これも自分の一つなんだって受け入れて、一生懸命に生きていこうとする柴田の姿がある。
「おせーよ」
柴田が私のすぐそばまでやって来た。