明日が終わる、その時まで【完】
小春が言うには、別に柴田が男子たちに命令して楠田くんをこらしめているわけじゃない。
むしろ、楠田くんよりも強い柴田を利用して、男子たちが自分たちの意思で楠田くんに今までのうっ憤を晴らしてるのだ。
男子たちのやっていることはずるいし、情けないけど、それを招いたのは楠田くんだ。
そんな楠田くんの肩を持つ義理など私にはない。
「でもこのままだと授業とか行事もスムーズにいかないんじゃない?」
今日の晩御飯のおかずであるハンバーグのタネをこねながらパパが言う。
「そうなんだよねー。楠田くんのことは心底どうでもいいんだけど、小春が怯えてるし、教室も汚いし、空気も悪いし……小春のためにもどうにかしたいけどさ」
「ヘッヘッヘ」
今まで私の膝の上で大人しく丸くなっていたポンが急に起き上がる。
この子は佐野ポン。
10歳の柴犬。
ここだけの話、タマ無しのオスだ。
まるで私の沈む心を察したかのように、顔をペロペロと舐めて、慰めてくれる。
「ねえポン、どうすればいいと思う?」
「ワウ?」
「かわっっ‼ なにこのポーズッ、あざとっ。あざとかわいいっ。でもいいっ!」
私の膝の上でポンが仰向けにポーズをとる。
お腹を見せている体勢こそ「もう好きにして」とでも言っているように見えるけど、実際は、「ほら、さっさと撫でろ」という要求だ。