明日が終わる、その時まで【完】
パパの言うように世の中にはどんなに真心をぶつけても心が通じない人もいることもわかっている。
柴田がそうかもしれない。
でもさ、パパの願いじゃないけど、それを理由に心を人にぶつけられない人間にはなりたくない。
そこは、私も完全同意。
柴田なんてどうだっていい。
関係ないけどさ。
同じクラスになっちゃったんだもん。
これから先、二年間、卒業までずっと一緒なんだもん。
私の前にポンと同じ目の人間が現れてさ……放っておけるか。
「あーもうっ! ほらっ、貸して」
だからといって、女の私に勢いを削がれては柴田の沽券に関わるだろうし、ここで柴田が素直に私に従ったら、男子が柴田への態度を一転してしまうもしれないし。
亜美も梨花も助けて、柴田にも恥をかかせない選択は……一つだけ。
私は力の緩んでいた柴田の手から墨汁を奪い取って、
「晶ちゃんっ!?」「晶っ!」「きゃああああ!!」
小春や女子たちの悲鳴を背に、朝一杯の牛乳のごとく墨汁を一気飲みした。
あーまっず。
激まず。
これ、良い子も悪い子も絶対真似しちゃダメなやつだ。
「おえっ」
これまた後味も最悪で、酔っぱらいのおじさんみたいにえづいてしまった。
これは飲むもんじゃないわ。
みんなも引いちゃっているし。
目の前にいる亜美と梨花も引いているし。いや誰のせいだっつーの。
「はいはい、これでいいでしょ。さっさと席戻る」
口元を袖でぬぐって、私を柴田の背中を軽く押した。
「……お前、すげーバカだろ」
私に背を向けたまま柴田がつぶやく。
「まあ、賢くはないわ」
我ながら、そこは自信ある。
柴田も私の行動に引いたのか、それ以上口を開くことなく、大人しく席に戻った――