明日が終わる、その時まで【完】
わけがわからないで混乱する私に、福沢くんが静かに教えてくれた。
「幼馴染なんだ。僕と大吾」
「ええええっ! うそ」
「本当だよ。家が近所でさ……親同士も仲良くて。生まれた病院も一緒で……大吾が5年生になる前に転校するまで、幼稚園も小学校も同じだったんだ」
「そう、だったんだ。そうだったんだ」
意外すぎて、それしか言葉が出てこない。
「今はあんなふうになっちゃったけど……大吾、本当は優しいやつなんだ」
「えっ?」
福沢くんは悔しそうに自分の唇を強く噛む
「僕さ、小さい頃から鈍くて、何をするにも時間がかかるから……友達から仲間外れにされたり意地悪されたりしていたんだ」
私は福沢くんのことを鈍いとは思わない。
福沢くんは、なにをするにも相手の気持ちを考えてからから行動に移すから、みんなより一呼吸時間がかかるのだと思う。
1年間同じクラスで過ごした私から見れば、福沢くんは鈍いのではなく、人と丁寧に向き合おうとする人なのだ。
「そんな僕を、大吾はいつもかばってくれた……ぐずな僕が、こんな自分嫌だ、変わりたいって泣いていると、いつもいつも『お前はお前のままでいい』って、励ましてくれた」
昔のことを思い出しているのか、メガネの奥の福沢くんの目にはうっすらと涙が滲んでいた。
「……なにそれ。柴田、めっちゃいいやつじゃん」
それ本当に、昨日、亜美と梨花に墨汁飲ませようとしていた柴田と同一人物で間違いないんだよね?
『お前はお前のままでいい』なんて、
相手のすべてを包み込むような温かい言葉をかけたことがあったなんて、
今の柴田の姿からは到底想像もできないことだけど、福沢くん本人が言うのだから本当のことなのだろう。