明日が終わる、その時まで【完】



「私、行くわ」

「……引き返せるよ」


歩きだろうとした私を、福沢くんのつぶやきが止める。


「今なら聞かなかったことにして、教室に引き返してもいいんだよ」


この先、柴田と関われば、きっと私も傷つくことになるかもしれない。

福沢くんはそれがわかっているから、私に逃げ道を作ってくれているのだろう。


福沢くんだって……優しいじゃん。


「福沢くんさ、人の気持ち考えすぎ」

「えっ?」


私に傷ついてほしくない気持ちと、柴田を救いたい気持ちが複雑に絡み合っているせいで、言葉では「引き返してもいいよ」と言ってるくせに、その顔は「助けて」って叫んでいることを、本人はわかっているのだろうか。


「たまにはさ、自分の気持ち100パーセント表に出してみれば?」

「……そんなことっ」

「っていうか……お願い……びびってる私の背中押して」


きっと福沢くんの心の叫びが、私の足をまた動かしてくれる。

福沢くんは(うつむ)くと、肩と拳を震わせた。



そして間髪入れず、叫んだ。




「佐野さん助けてっ。僕の力だけじゃ無理なんだっ、僕だけじゃっ……お願い、お願い……引き返さないでっ……大吾を見捨てないでっ」



福沢くんは、泣きながらその場に崩れ落ちた。

うちのクラスに柴田大吾が降臨してから、調子づいた男子たちに加担することなく、ずっと静観(せいかん)していた福沢くん。

どんな気持ちで柴田を見ていたのかな?


どうにかしたい、でもどうにもできない。


きっと、その二つの感情が繰り返し、押し寄せていたんだろうね。



福沢くんに「ありがとう。行ってくる」と告げて、私は昇降口を出た……――


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