明日が終わる、その時まで【完】



「柴田は……多分バカじゃない」


Bが私の言葉を一つも聞き逃さないように耳を傾ける。


「勢いでも人に墨汁飲ませたなんて、時間が経ったら、後で絶対後悔するに決まってる。だから止めた」

「……それで墨汁飲んで阻止するって、晶ちゃん聖人すぎない?」

「勘違いしないで。私は聖人でも善人でもない。私は私が嫌だからそうしただけ。全部自分の感情優先だよ」

「へえ。じゃあ大吾を追いかけてきたのは?」

「放っておけないから」

「はいー?」

「そんな、こんな悲しそうな目してる人間、孤独な目してる人間の目を見て、放っておける人いるの? 私は無理。一度見ちゃったものを、見なかったことにはできない」

「知り合って間もないただのクラスメイトじゃん」


Bの言うように、私と柴田は知り合って間もないただのクラスメイトだ。

でもさ、私はこう思うんだよね。


「柴田と私はこれから二年間同じ教室で生活するクラスメイトなの。この二年に限っては、家族よりも長い時間を過ごすことになるクラスメイト。毎日顔を合わせて、あと少しで終わる10代の大切な時間を過ごすことになる人間。私にとっては、それだけで放っておけない十分な理由になる」


本当は、理由なんて、どうでもいい。

行動する理由なんて、なくなったいいと私は思う。

自分や周りを納得させる正当な理由をいちいち考えていたら、時間はあっという間に過ぎていくだけだ。


自分が嫌か、嫌じゃないか。


行動する理由なんて、それくらいシンプルでいいでしょ?



Bが黙って私の目を見つめる。

何かを見定めるように、瞳の奥を探るように。

私は、その視線から一瞬たりとも()らすことなく、Bの視線を受け止めた。







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