明日が終わる、その時まで【完】



私の顔から目を逸らして、苦しそうに、自らの過去を吐きだしていく。



「俺が生まれる前から、(うつ)(わずら)ってた……でも、俺が生まれて……ノイローゼになって……8年前に自殺したんだ。そんなの、俺が殺したようなもんだろ」

「いや、全然違うから」


〈俺が殺した〉のと〈俺が殺したようなもの〉では、だいぶ違う。

ううん。

そんなことはもうどうだっていい。

私は柴田に聞いておきたいことがあるのだ。



「柴田のお母さんてさ、どんな人だったの?」



母親を悪く言われてキレるくらいには、ちゃんと愛情を受けていたことはわかった。

でも私は、柴田の口から聞きたかった。お母さんのことを。



「どんな人って……」

「料理が得意だったとかさ、怒ると怖いとかさ。柴田、小学生だったならまだ覚えてるでしょ」


制服を掴まれていた手がゆっくりと離れて、柴田が考える素振りを見せる。

死んだお母さんのことを思い出すのは辛い。


それは、私にもわかるから。


死んだという事実は確かに辛いけど、お母さんが生きていた間が辛い思い出ばかりだったとは思えない。

死んだという過去があるのと同時に、死ぬ前の、生きていた過去だってある。

生きていたお母さんのことを、教えてほしい。



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