明日が終わる、その時まで【完】




「………………誕生日も、クリスマスも……全部、母親の手作りケーキだった」




柴田は、ぽつり、ぽつりと、言葉を紡ぎ始める。




「えっ、すごっ」

「…………すげー足遅くて……母さんと遊ぶと、物足りなかった」

「あははっ」

「…………俺が、友達と喧嘩して、顔にかすり傷作っただけで、泣きそうな顔してた」

「心配性だね」

「……風邪ひくと、小さい土鍋に卵粥(たまごがゆ)作ってくれてさ……でも、上にのってる三つ葉が嫌いだったから、吐きそうになりながら毎回食ってた」

「あははっ。三つ葉のせないでって言えば良かったじゃん」

「言えなかったんだよ」

「どうして?」

「言ったら……もう、作ってもらえなくなると思ったんだ」

「……そんなわけ」

「だから、最後まで言えなかった」


言えばよかったんだよ。

三つ葉が嫌いだからのせないで、って。

そしたらさ、今聞いた柴田のお母さんだったら、

『そうだったの? 気づかなくてごめんね。次作るときはのせないからね』って言って、笑ってくれそうじゃない?

柴田のお母さんを見たこともない私でさえ、簡単に想像できる。


絶対、絶対……素敵なお母さんだったよね。

自慢のお母さんだったよね。


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