明日が終わる、その時まで【完】
「ごめん……あのさ、信じられない」
「なにがだよ」
お母さんとの思い出が頭の中をめぐっているせいか、柴田の顔がいつもより穏やかに見える。
「お母さん、本当に自殺したの?」
思い出の中のお母さんの温もりに包まれていた柴田に、改めてこんなことを聞くのは嫌だけど、確認せずにはいられない。
「……だから言ってんだろ……俺が8歳の時にマンションのバルコニーからから飛び降りたんだよ」
「目撃者がいたの?」
「いねえよ。でも、バルコニーの欄干の高さからして自発的に飛び降りないと落ちない高さだったし、欄干のすぐ下に踏み台もあった。精神科にも通ってたしな……事件性もなかったから、ほぼほぼ自殺で間違いないって」
「……信じられない」
柴田の思い出の中にあるお母さんは、柴田を置いてあの世へ行くような人には思えない。
心の病気も患っていたなら、衝動的に飛び降りてしまう可能性だってあるだろうけど、それでも、その衝動より柴田への思いが劣っていたとは思えない。