明日が終わる、その時まで【完】
私は位置を確認すると、ドアノブを斜めの角度から思いきりチョップした。
すると、ドアノブはぐるんと回って、カチャッという音を立てた。
「行くよ」
「……お前何者だよ」
この形のドアノブはこれで開くの。知らない?
もちろん、ドアノブが壊れる可能性があるから本来なら絶対ダメ。
だけど、非常事態ということで、この方法で開けさせてもらった。
屋上に出ると、さっそく制服のポケットからスマホを出して、カメラを撮影モードに切り替えた。
「じゃあ撮るよ」
「ああ」
当時柴田家が住んでいた部屋のバルコニーが見える角度、すべてをスマホで撮った。
後で見返したときに見やすいように、ゆっくり、一か所ずつ、撮り続けた。
五分もかからずにすべての角度で撮り終え、しっかりと保存したことも確認した。
「柴田、終わったよ」
柴田に声をかけるも、柴田からの返事はない。
「柴田?」
柴田は屋上の欄干ぎりぎりまで近づいて、マンションの下を見つめていた。
お母さんが落ちて死んだ場所を見て、何を思っているのだろう。
直前になって、やっぱり現場に行くのは酷かもしれないと思った私は、一人でもできる作業だし無理に柴田が来る必要はないと伝えた。
だけど、柴田は『いや。俺も行く……行きたいんだ』と言って、ここに来ることを自ら選んだ。