明日が終わる、その時まで【完】
「柴田」
「……すげー高いのな」
「柴田の家、何階だったの?」
「10階」
「そっか。じゃあここからの景色とそんなに変わらないね」
「……痛かっただろうな」
柴田がぼそっとつぶやく。
「こんなこと言ったらあれだけどさ……即死だったら、地面に激突したショックで痛みを感じる前に亡くなっているはずだよ」
どんなフォローだよって感じだけど、痛みは感じなかったはずだ。
だから大丈夫だよなんて、口が裂けても言えないけど。
でもせめて、痛くなかった可能性の方が高いことは、伝えておきたかった。
「そっか……じゃあ痛いって思うことはなかったかもな」
「うん」
痛い、苦しいと感じながら死ぬのは、きっと地獄だ。
どんな死に方でも、苦しまずに息を引き取ったのなら、残された親族はまだ救われる。
「行こう柴田」
いつまでも欄干の向こうを見下ろす柴田の腕を、少し強引に引っ張った時だ。