明日が終わる、その時まで【完】





翌朝――居ても立っても居られず、思い切って福沢くんに電話をした。

本人である柴田ではなく福沢くんに尋ねるのはずるいと思ったけど、



⦅親父と話すの無理⦆



短い文面からでも、柴田と柴田のお父さんの距離を感じて、柴田に聞くことなんてできなかった。


電話をして、福沢くんから聞いた話では、柴田のお父さんは市内の警察署の刑事課に勤務しているそうだ。

お母さんが亡くなった一年後にお父さんの実家のある静岡へ転勤して、今年、またここに戻ってきた。

福沢くん曰く、柴田のお父さんは強面で屈強な男の人だという。


『僕さ、大吾のお父さん二回だけ見たことあるんだ』


柴田と福沢くんは幼馴染でお互いの親同士も付き合いがあった。

だけど柴田のお父さんの職業柄、福沢くんが柴田のお父さんを見たのはたったの二回だけ。


『一度目は、おばさんが亡くなる半年くらい前。その日、大吾と遊ぶ約束していたのに、急に遊べなくなったって電話がきてさ。それで、仕方なくお母さんと近所のスーパーに行ったら……大吾とおばさんと、大吾のお父さんが三人で歩いてたんだ。多分、おじさんの仕事がたまたま休みになったんだろうね。ただ歩いてるだけだったけど、三人の背中はみんな幸せそうだったよ。それに……遠くから見えた大吾の横顔があまりにも嬉しそうだったから、声をかけられなかったんだよね』


柴田のあんまりにも嬉しそうな顔なんて、想像できなかった。


『二度目は、おばさんが亡くなって一年後。引っ越しの見送りのために、駅まで行ったんだ。大吾のおじさんってすごく体格のいい人だったんだけど……大げさでもなんでもなく、体が一回り小さくなっていて……顔もやつれてさ……シワだらけのシャツを着て。……僕さ、当時9歳だったけど、こらえきれずに泣いちゃったんだ。大吾もおじさんも、僕の親も、僕が大吾との別れが悲しくて泣いてるって思ってただろうけど……それもあったけど、涙が止まらなかった理由は、別れの悲しさだけじゃなくて、大人の人が、僕よりもずっと強くて逞しい大人の男の人が、愛する人の死でここまで変わってしまうんだってことに、驚いて、悲しくて……悲しすぎて……涙が止まらなかったんだ』


柴田のお父さん、お母さんのこと愛していたんだ。

心から、愛していたんだね。


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