明日が終わる、その時まで【完】


クリニックに着いて名前を伝えると、すぐに奥の部屋に案内された。

クリニックのフロアは受付の人以外、誰にも会わないようなつくりになっているのか、奥の部屋に着くまで人の気配は感じるのに人の姿は見えなかった。


そこは六畳くらいの広さの部屋だった。

学校の応接室のように、白いテーブルを挟んで対面するように黒いソファがある。

小さな窓には部屋側から格子(こうし)がついている。

考えたくはないけど、場所が場所だし、飛び降り防止のためかもしれない。

私と柴田はソファに座って先生を待った。



そして、5分ほど経った頃――コンコン、というドアをノックする音と共に、ゆっくりとその人は入ってきた。




「はて……佐野晶さんは、どちらかな?」


70代くらいの先生は、白髪に白いひげ、線のように細い目といった、ごく普通のおじいちゃんだった。


「私です」

「そうかそうか。君だったか」

「すみません。紛らわしくて」

「いやいや。良い名前じゃ」

「私も気に入っています」


口調もまとう雰囲気も穏やかで、先生が部屋に入ってきてから不思議とこの部屋の中ではゆっくりと時間が流れているように感じた。



「では、君のような生き生きと輝く瞳を持った人間が、一体どんな用事でここに来たのかね?」


先生は柔らかい表情を浮かべて、私たちの向かいのソファに腰かけた。

この様子だと、私たちが診察で来たわけではないことなどお見通しのようだ。

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