明日が終わる、その時まで【完】



「わからんから、わしは今もここにいる」

「まあ……はい。それは、そうですよね」

「けど、わしのもとには死の(ふち)に立つ人間が次々やってくる」


先生はゆっくりと(まぶた)を閉じる。


「ここに来る人間は、仕事も家族構成も、ここへ来た理由も十人十色。じゃが、共通してることもある」

「それってなんですか?」

「わしの主観になるが、心の(やまい)を抱える人間の多くは、〈(ずる)さ〉がない」

「狡さ?」

悪賢(わるがしこ)くなれない人間が多いと感じる。人を(あざむ)けとは言わんが、もっとずるく生きてもいい。多少のずるさがないと、毎回損をしたり、責任を押し付けられたりするからなぁ」

「なんとなく、わかる気がします」

「それと、自死する人間は、死を自ら選んでいるわけではないぞ」

「それどういうことですか」


先生のその一言に、間髪入れずに尋ねたのは柴田だった。




< 88 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop