明日が終わる、その時まで【完】
「わからんから、わしは今もここにいる」
「まあ……はい。それは、そうですよね」
「けど、わしのもとには死の淵に立つ人間が次々やってくる」
先生はゆっくりと瞼を閉じる。
「ここに来る人間は、仕事も家族構成も、ここへ来た理由も十人十色。じゃが、共通してることもある」
「それってなんですか?」
「わしの主観になるが、心の病を抱える人間の多くは、〈狡さ〉がない」
「狡さ?」
「悪賢くなれない人間が多いと感じる。人を欺けとは言わんが、もっとずるく生きてもいい。多少のずるさがないと、毎回損をしたり、責任を押し付けられたりするからなぁ」
「なんとなく、わかる気がします」
「それと、自死する人間は、死を自ら選んでいるわけではないぞ」
「それどういうことですか」
先生のその一言に、間髪入れずに尋ねたのは柴田だった。