明日が終わる、その時まで【完】


先生は閉じていた瞼を開いて、柴田を見つめる。


「頭が冷静なとき、人は死を選ばない。人が死へ行動を移したとき、それはもう冷静ではないということ。冷静な判断ができないからこそ、行動が死を選ぶのじゃ」

「……先生、ごめんなさい。もうちょっとわかりやすくお願いします」


私はもう少し簡単に説明してもらえるようにお願いをした。


「つまり自死は、本人の意思であって本人の意思ではないということじゃ」

「先生、ますますわからないです」

「簡単じゃよ」


どこが! と、言いたくなる気持ちをぐっとこらえて、先生の話に耳を傾ける。


「少なくとも、ここに来る人間は死を選択したいとは思っていない」

「えっ」


どういうこと? 死にたいほど辛いからここに来るんじゃないの?


「晶さんは、どんな時に病院に行く?」

「えっ、と……風邪をひいた時とか、体を痛めた時とか、ですかね」

「それはその症状が悪化したくて行くのかな?」

「そんなわけありません。早く元気になりたいから行……あっ」



そっか、そうだよ。

そうだよ。



「ここに来る患者も一緒じゃよ。死にたいほど辛くても、苦しくても、死を選択したくないという思いが(わず)かでも残っているからここに来るんじゃ。最初から本当に死ぬ気なら、ここにはこん」



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