明日が終わる、その時まで【完】



「じゃあ、ここに来る人には後ろ向きな人はいないですよね」

「本人たちはどう思っているかわからんがな。わしは、辛い病気を抱えている中で、自分の足でちゃんと病院に通っているだけで十分前向きな人間じゃと思っておる」

「そんな人たちでも……中には、死を選択してしまう人もいるんですよね」

「いる」


現段階では、柴田のお母さんもその一人ということになる。

あれ以降黙ってしまった柴田に視線を向けると、目を伏せて口を一文字に結んでいた。


先生は、不意にソファから立ち上がって、格子の隙間から外を見つめる。



「生まれつき、非常に感受性が強く、敏感な気質を持った人間が、人口の20%ほど存在する」


先生は私と柴田に背を向けて、ぽつぽつと語り始めた。


「人や場の空気を読み取れすぎたり、五感に対する刺激に過度に反応してしまったり。ほかにも、共感性が強くてすぐに感情移入してしまったりとな……そういう特性を生まれながらにもっている人間は、そうでない人間よりもずっと疲れやすい。だからか、うつにもなりやすい」


先生は窓から空を見上げる。



「生まれながらにその性質を持つ人間が、結婚し、子育てをするというのは、その特性を持たない人間よりも大変なことじゃろうな」

「!」


私は思わず柴田を見る。

柴田も伏せていた目を上げた。



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