明日が終わる、その時まで【完】



「死を選択したと知った時は、にわかに信じられなかった」


どうして? どうして信じられなかったの? 

言いたい言葉の数々をぐっとこらえて先生の話を黙って聞く。


きっとこれは先生の独り言だから。


もしも、何か一つでも尋ねてしまったら、それは私たちとの会話になって、先生はすぐに口を閉ざさなければならないから。


「結婚し、子どもを生んでからのあの子は、一人の時よりも疲れているように見えた。けど、一人の時よりもずっと強くなったようにみえたんじゃ。後ろ姿が、(たくま)しくなったと思ってたんじゃよ……わしには、そう見えていた。だから信じられなかった……信じたくなかった。節穴(ふしあな)だった自分の目に失望したよ。わしは、20年以上、あの子の何を見ていたんじゃろうな」



柴田のお母さんがそんなにも前から先生のところに通っていたことに驚きを隠せない。

そんなにも長い間、もがいて、苦しんで、必死に生きていたのだ。



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