社長じゃない僕は、君のために何ができる? 〜社長、嫌いになってもいいですか?シリーズ 最終章〜
こんな明るい時間に自分の部屋に戻ったのは、一体どれくらいぶりだろう。
まず、玄関前に置かれていた花に驚いた。
靴箱の中も、こんなに整えられていただろうか。
それに、1つまた扉を開けて、僕は驚いた。
家具自体は、確かに僕が買ったもの。
だけど配置が違う。
疲れて帰ったら、すぐに横になれるような位置にソファが置かれている。
それに、テレビや机も、前に比べてずっと僕が生活しやすい導線に置かれていた。
僕自身は、そういうことに気遣えない人間なのは自覚がある。
ということはやはり、これをしたのは……。

「社長、ここで休んでください」
「これ……雨音が……?」

雨音は、僕をソファに座らせながら、少し皮肉が入ったような笑みを浮かべて

「この模様替えをしたのは、1ヶ月前ですけどね」

と言った。
1ヶ月前、僕は何をしていただろう?
2ヶ月前は?
僕は自分の部屋の変化にすら気づかないどころか、自分が今日まで何をしてきたのか、まるで記憶にない。

それで気づいた。
その間、雨音は?
彼女は一体、何をしていた?
僕は、彼女と何か話をしただろうか?

僕は急いで雨音の方を見る。
雨音は、いつの間にか窓際にいた。
それから、慣れた手つきで少し開きにくい窓をスライドさせた。
さあっと、外の空気が入り込む。
空気は風となり、僕の頬に汗が垂れていることを教えてくれた。
雨音は再び僕を見る。
その表情は、あの日……

「嫌いになってもいいですか?」

と僕に告げた時と同じ顔をしていた。
< 17 / 33 >

この作品をシェア

pagetop