社長じゃない僕は、君のために何ができる? 〜社長、嫌いになってもいいですか?シリーズ 最終章〜
「雨……音……?」

僕の顔を見て、雨音は自分がどんな表情をしたのか気づいたのだろう。

「ごめんなさい」

ぱっと、僕から顔を逸らした。

「疲れてますよね、お風呂入れてきます」
「待って雨音」

急いで僕から離れようとする雨音の手首を、僕は掴んだ。

「何ですか?」
「怒ってる?」
「どうして、私が怒る必要があるんです?」
「僕は、君のその顔を知っているよ」

ずっと押さえつけてきた僕への怒りが、抑えきれなくなった時に見せる顔。

「何か言いたいことが、あるんじゃないのか?」

僕は、この顔をさせてたくなくて……幸せにしたくてここまできた。
でも、そんな僕に足りないものがあって、今この顔を雨音にさせているのだとしたら。
僕は、ちゃんと受け止めないといけない。
雨音の心を。
雨音は、しばらく俯いたままだった。
僕はその間、手首を離さなかった。
これだけは分かっていたから。
雨音は、こうまでしないと彼女の苦しみを吐き出してはくれないことを。
だから僕は待った。
時計の音が静かに響く。
カチカチと、時が流れるのを教えてくれる。
それから、雨音が開けた窓からさっと風が流れてようやく、雨音が声を聞かせてくれた。

「社長にとって、私ってなんなんですか?」
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