社長じゃない僕は、君のために何ができる? 〜社長、嫌いになってもいいですか?シリーズ 最終章〜
「社長、覚えてますか?私が社長の下で働いていた日のことを」
「……ああ……」

もちろんだ。
忘れるはずがない。

「私、最初社長のこと……正直なんて適当な人なんだろうと思ってました」
「え」

それは、初耳だった。

「面接での第1印象は、ダサい格好してるなって思いましたし」
「え」
「それに初対面の大学生にいきなり悩みを打ち明けるし」
「うっ……」
「いざ仕事を始めてみたら、社長の低すぎる事務能力のおかげで、迷惑いっぱいかけられました」
「め……面目ない……」
「何回、カオスって言葉を仕事中に使ったか、分かりません」

どれもこれも、心当たりがあるだけに、ぐうの音も出ない。

「でも……社長……私、楽しかったんです」
「え?」

楽しかったって?
空耳かと思って俺が聞き返すと、雨音はこくりと頷いた。

「整理整頓は苦手だし、事務作業の才能は皆無。だけど取引先への情熱とか、仕事への想いとか……私たちインターンを信じてくれる気持ちとか……社長と一緒に過ごしたあの日々は、私にとって宝物なんです」
「あ……雨音……!」

雨音を抱きしめている手に力がこもってしまった。
雨音の体は、前より、ほんの少し薄くなってしまったように思えた。
……一体どれだけの間、この子の体を抱きしめていなかったんだろう……。
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