社長じゃない僕は、君のために何ができる? 〜社長、嫌いになってもいいですか?シリーズ 最終章〜
僕は今、彼女との思い出が詰まったオフィスにいる。
かつての彼女は、いつも僕に怒っていた。
当時を思い出すたびに、懐かしい気持ちになる。

「社長!いい加減、ちゃんとしてください」

とことん、だらしがない僕。
パソコンの前でする作業以外のことは、適当でもどうにかなると思っていた。
そんな僕に、いつも目を光らせていたのが雨音だった。
別に、ペン1つ転がしっぱなしだったとしても、命に関わるわけじゃない。
服もよれよれだったとしても、ここのオフィスに来るのは学生がほとんど。
だから誰も気にしなかった、はずだった。

それなのに、雨音。
君だけは違ったんだ。

「社長なんだから、身なりも大事にしないと」
「ペン立て、この方が手に取りやすくないですか?経費で落としてください」

そんなこと、誰も気にしなかった。
僕も、気にしたことがなかった。
それを、君だけは気にしてくれた。
君は、僕にも、周りにも煙たがられながらも、行動をしてくれた。
変えようとしてくれた。
どうして、そこまでしてくれるんだろう、と不思議に思うこともあった。
けれど、君を女の子として意識するようになってから、僕はこんなことを思うようになってしまった。

僕を、君が怒ってくれるのが嬉しい。
僕のことを、君がそこまで考えてくれるのが嬉しい。

僕は、そんな風に物事を単純にしか考えられてはいなかったのだ。
情けないことだと、今は思えるけど……。

そして雨音がオフィスで作り上げた結果が、本当の意味で花開いたのは……僕が、僕の部下としての君を手放して少し経ってから。
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