エリート御曹司は独占本能のままにウブな彼女を娶りたい
プロローグ
我が家の匂いというのは、独特の物だ。
例えビンに詰められた10種類の匂いの中から選べと言われても、すぐにわかると思う。
我が家の匂い……母が大好きな庭の沈丁花のほのかな香り、父が書斎で燻らせていたパイプの煙、兄が気が向いたら作ってくれた、本場仕込みのバターチキンカレーのスパイシーな匂い……。
そんなものがごちゃ混ぜになったものだと思う。
「ただいま……」
玄関のカギを開けて家の中に入っても、返事をしてくれる人はいない。
兄が急死した後、両親はここに住むのが辛いと海辺の街へ引っ越して行った。
『この家は、お前の好きにすればいい』
住むのも売るのも任せると両親から言われたからここに帰ってきた。
緑に包まれた我が家には、兄の愛犬だった『ムサシ』がいるだけ。
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