エリート御曹司は独占本能のままにウブな彼女を娶りたい
煌斗は、その唇に思わず目がいってしまう。
(……甘くて溶けてしまいそうな唇だ)
煌斗は10年前の優杏が思い出された。
あの時は彼女からキスをせがまれたのに、今は自分が彼女に触れたくてたまらない。
だが、ゆっくり顔をあげた優杏が彼に告げたのは意外な言葉だった。
「片岡さん、お互いに忘れましょう」
聞き間違いだろうか、優杏はあのキスを忘れたがっているのだ。
「兄のことで、お互いに精神的に追い詰められていたから……」
優杏が一度、小さく息を吐くのが見えた。
「それで、ああなってしまったんだと思うの」
「優ちゃん、あれは」
そうではないと言いたかったが、彼女からそう決めつけられたら
煌斗は否定できなかった。
「あの日は、ふたりとも思い出に飲み込まてしまった……ということか?」
「そうよ、だから友情のキスなのよ」
友人同士のキスはあんなに深くはならない。
優杏は自分とのキスを受け入れてくれたと思っていたが、忘れ去りたいのだろうか。