エリート御曹司は独占本能のままにウブな彼女を娶りたい
「でも……」
優杏はすぐに答えられなかった。
(彼の家? 彼と奥さんが住んでいる家?)
「片岡さんにそこまでしていただくわけにはいきません」
自分でも驚くほど冷たい声が出てしまった。彼の妻に会いたくなかったのだ。
こんな話し方では、妻への嫉妬心が伝わってしまっただろうかと不安になった。
その時、遠吠えのように大きくムサシが吠え始めた。
『もしかして、今のはムサシ?』
「聞こえましたか? 急に吠え出して」
『優ちゃん、これから迎えに……』
(これ以上、煌斗さんに甘えちゃいけない。奥様に申し訳ない)
心の中で詫びながら、優杏は不自然なくらい丁寧に断りを言った。
「心配してくださって、ありがとうございました」
それだけひと息で言いきると、優杏は電話を切ってしまった。
その直後、ズンッと響くような振動を身体に感じた。
(な、なにこれ!)