エリート御曹司は独占本能のままにウブな彼女を娶りたい
「いえ、こちらこそ……ムサシがスーツを汚していないといいのですが」
その人は目が合うと、ニッコリ笑った。
「大丈夫です。それより門が開いてたので勝手に入ってしまいました」
「あ……いけない」
荷物が届いた時に、アーチのついたアイアン門扉を開け放していたことを思い出した。
ひとり暮らしを始めたばかりなのに不用心すぎる。
「亡くなった悠慎君の友人で、片岡煌斗といいます」
濃いグレーのスーツ姿の男性は、名乗ると軽く会釈した。
少し長い髪は緩くウエーブが掛かっていて、誠実そうな表情は昔のままだ。
ただ、10年前よりがっちりとした体格になり表情にも大人の余裕が見える。
(兄の同級生だから、この人も35になるんだわ)
涙が出そうになるくらい懐かしい人。初恋の人だ。
16歳の時に、キスして欲しいと願った人が目の前に立っている。