恋人の木
【6】片想いの行方
卒業式の二日前に、楓は父から夜逃げの話を聞いた。

当然ながら嫌だと抵抗はしたが、この頃の父は、不自由な足に鞭打ちながらも、娘のために一生懸命働いていたのである。

そんな父を見捨てることは、優しい彼女にはできず、実際、一人残るわけにもいかなかった。


都会の片隅に隠れ住んだ親子は、共に働き、何とか建て直しの一歩を踏み出していた。

しかし、そんなに甘いものではなく、すぐにその居場所はばれてしまったのである。

体は誰にも負けないほどの美人であった楓は、仕方なく、ビップが多く利用する、仮面会員制のフーゾク店で、自らも仮面を着けて働くことになった。

父親の収入は、生活ができるギリギリであり、彼女は、昼間はラブホテルの裏方で働き、夜はフーゾク店。

ほとんど寝る間もなく働いていた。

その体の美しさ故に、顔を隠した彼女の人気は高まって行き、フーゾク店での収入は増していった。

この頃から彼女は、もう一度夢を持ち始めていた。

お金を貯めて、整形手術をする。

そして、もう一度彼に会いたい。

そのために、彼女は必死に働いたのである。


借金は３年で返済し終わり。

彼女は普通の仕事へと職を変えた。

さあこれから自分の為に、と思った矢先。

彼女の体に異変が起こった。

医者からは、余命は分からないが、長くはないであろうと言われ、父親は、彼女に何度も頭を下げて、謝った。

そんな父に彼女は、

『お父さん。私は大丈夫だから。これからも二人で頑張って生きていこう。』

と微笑むのであった。


それからも、彼女は、夢を諦めず、懸命に働いたのである。
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