恋人の木
【3】片想い
坂本楓(かえで)。

彼女は、人一倍優しくて真面目で、先生の信頼も厚く、生徒会の会計を受け持っていた。

色々なイベントの裏側で、人の嫌がることも自分から行っていた。

武志はそんな彼女を頼りにしており、色々と相談をした。

彼女に、女友達は一人もおらず、男子で彼女と話すのも、武志ぐらいであった。

その理由は、彼女の顔にあった。


彼女は、細くて美しい体をしていたが、その顔の半分が酷い火傷で覆われていた。

小学校4年生の時、酔った父親が母親に暴力を振るい、止めようとした彼女は、突き飛ばされ、ストーブに激突。

そこにかかっていたヤカンのお湯を顔にかぶったのである。

大人になれば、整形手術をすることは可能であったが、莫大なお金が必要であった。

坂本の家は貧乏で、父親が事故で脚を不自由にしてから、母親が働いて、生計を立てていた。

父親はろくに働かず、挙句の果てに大きな借金も抱えてしまっていた。

母親は、娘の顔をみては、いつも涙を流して謝ってばかりであった。


楓の方は、「バケモノ」とか「キモイ」とイジメられながらも、顔に布を巻いて、ちゃんと毎日学校へは行っていた。

実のところ、父親への恐怖がトラウマとなり、小さなアパートの部屋で、一日中2人っきりでいたくなかったのが本心であった。


そんな娘に、何とか、大きくなるまでに手術費用をと、母親は死に物狂いで働いた。

そして、その苦労がたたって、楓が中学1年生の冬に、病でこの世を去った。

死に際まで、楓に謝り続けていたという。


それからというもの、さずがに父親も何とか働き口を見つけ、親子は細々と毎日を暮らしていた。

が、その裏で、父親の借金はかさむ一方であった。
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