離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
「柊子、おまえな」

瑛理が食べるのを中断し、ため息をついた。呆れた様子で私をみやる。

「だから、どうしてそこまで離婚したいんだ? 好きな男でもいるのか?」

昔、同じ質問をこちらからしたとふと思う。私はうつむき、首を左右に振った。

「そうじゃない。でも、想い合っていないふたりが結婚生活を送るのは間違っていると思う。この結婚は両家のための形だけのものにして、お互い別な道を行く将来を模索すべきだよ」
「政略結婚なんてそんなものだろう? むしろ、俺と柊子はまだマシな方だ。子どもの頃から知り合いだし、お互いの性格なんかもだいたいわかる。俺はおまえと友達みたいに過ごしてきたと思ってるし、別に……結婚だって我慢できないわけじゃない……」
「心から好きな人と結婚した方がいいに決まってる。少なくとも私はそうしたい」

瑛理が腕を組み、ちょっと馬鹿にしたように目を細めて私を見た。
ああ、この視線、すごく嫌。昔から瑛理って、私にだけこういう人を偉そうな態度をとるんだもの。

「この前も言ったけど、俺は離婚を拒否する」
「瑛理、私たちのためだよ。前向きに考えて」
「結婚してしまった時点で諦めろとしか言えないし、だいたい柊子の案だと、うちの兄貴と邦親さんの結婚を急かすことになる。兄貴に特定の彼女はいないし、邦親さんはまだおじさんたちに恋人を紹介もしてないんだろ?」

そうだ。兄は非常に慎重に事を運んでいて、恋人の瑠衣さんのことを親にはほのめかしてすらいない。
古賀製薬の跡取りである兄には、婚約解消以降縁談の話だってあった。しかし、それらも上手に躱しているのだ。
おそらくは瑠衣さんの家柄など、両親に反対されるかもしれない要素があるのだろう。
その兄と瑠衣さんに私が離婚をしたいからと結婚を急かすのは乱暴な話だ。
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