離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
番外編・水平しえによる志筑夫妻の観察
私、水平しえは、しづき株式会社営業部第二課に所属している。
入社三年目、先日二十五歳になったばかり。自分で言うのもなんだけど、仕事はできるし毎日は充実している。
しかし、そんな私にも嫌なことはある。現在、私は帰り道に避けたい光景に遭遇してしまった。
私の数メートル先を志筑夫妻が歩いているのだ。
夫の志筑瑛理は私のひとつ上で、次男だけど我が社の御曹司。少し前までは私と同じ課の一番近しい先輩だった。
妻の柊子さんは、近くの古賀製薬の社長令嬢。現在は妊娠五ヶ月とのこと。ふくらみ始めたお腹はコートの上からはわからないけれど、志筑先輩が腰を抱くように気遣って歩いているあたり、仲の良さは伝わってくる。
なんとこのふたり、幼い頃から許嫁の関係だったそうで。……許嫁って、どこの世界の話よ。
さらに面倒くさいことに、気持ちが通じ合ったのは結婚してからだっていうのだから意味不明だ。
両想いならお互いなんとなく察するでしょうよ。
どこまで鈍感なの? バカなの?
仕事帰りに待ち合わせ、むつまじく歩いている志筑夫妻の後ろを歩く私の気分は最悪だ。
なにせ、ほんの半年前まで、私は志筑先輩に片想いをしていたのだから。
「は~、嫌なもの見ちゃった」
そう言いながら、私は道を変えられないでいる。幸せそうな夫婦の後ろ姿を見つめて、追い越すこともできずに後ろをぶらぶら歩いている。