離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
「柊子の案は現実的じゃない。おとなしく、俺と夫婦を続けるしかないんだよ」
「瑛理とはうまくいかない。私たち、友達関係でぎりぎりだよ。夫婦になんかなれない。そういう対象で見るのは無理でしょう」

瑛理は黙る。その沈黙は肯定だ。
ほら、私のことなんか好きでもないくせに、家のためにこの結婚を穏便に継続しようとしている。

「正直に言ってよ。離婚とか言い出して騒ぎになるのが面倒くさいだけでしょ」
「まあ、正直に言えばそうだな。結婚も面倒だったのをどうにかこなした。そこをまたひっくり返すような手間をかけたくない」

瑛理が頭をがしがし掻きながら、心底けだるげなため息をついた。ため息をつきたいのはこちらだ。そんな気持ちで結婚して、私に失礼だなんて瑛理は思わないんだろうな。
やっぱり、家のためなどと言わないで、瑛理と結婚する前に踏みとどまればよかった。

「結婚までさせてしまったのは申し訳ないと思う。だけど両家のためだったと理解してほしいの。私はいずれ離婚したい。そのために同居もしないし、今まで通りの距離でいたい」
「多忙を理由に別居婚がいつまでも通ると思わない方がいい。……だけど、柊子の気持ちはわかった。今日のところは一回、俺も持ち帰って検討するわ」
「仕事みたいな口聞かないでよ」
「メシ、冷める。食べるぞ」
「う、うん」

こうしていれば、やっぱり夫婦というより幼馴染で友達。険悪な話し合いになるのを回避してくれたのかもしれないけれど、私の意見は聞き入れてもらえないままだ。
仕事に邁進したい瑛理にとって、恋愛も結婚も面倒くさいものなのだとよくわかった。パワーを割きたくないから、現状維持でいい。だけど、その情熱の無さに引きずられて愛のない結婚生活を送るのは嫌だ。

「この後、焼肉までの間に買い物に付き合ってくれ」
「いいよ。何買うの?」
「姉貴に頼まれた限定コスメ、並ぶのが恥ずかしいんだよ」
「仕方ないなあ。美優さんのためだし」

夕飯までの時間つぶしは買い物になるらしい。ちょうどいいから、私もコスメを見よう。
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