離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
その日はデパートをめぐり、予定通り焼肉を食べて解散することになった。本当に色気も素っ気もないデートだ。しかし、許嫁として会っていた私たちはいつもこういったデートばかりしていた。会って食事をして世間話をして解散。たまにどちらかの家の夕飯に招かれる。そんな感じ。

焼肉屋を出て、テナントビルから出ると時刻は21時。繁華街は喧騒に包まれている。半日も瑛理といたし、夫婦の義理は果たした。

「それじゃあ」
「馬鹿、一応送る。タクシー手配してあるし」

帰ろうとすると引き止められた。抜け目なく配車アプリで手配をしていたみたいだ。近くにタクシーが待っていた。

「あれだ、行こう」
「うん。……きゃ!」

ヒールが歩道の溝に引っかかって、つんのめるようによろけた。即座に横から腕が伸び、私の腹と腰に回された。瑛理だ。

「え、瑛理!」

力強い腕が私の身体をしっかりと抱きとめている。細く見えるけれど、鍛えているのがこんなときにわかってしまう。

「そんなに飲んだか? アルコール」
「つまづいただけ!」

だからもう離してほしい。私はドクンドクンと内側で響く鼓動を感じながら目を逸らした。瑛理の匂いがする。いつも使っている整髪料か香水の匂い。男らしくてドキドキする匂い。

「じゃあ、注意力散漫だな。俺がいないところでは気をつけろよ」
「余計なお世話だよ」
「俺がいるときは助けてやる。感謝しろ」

私のドキドキなんて気にもかけずに瑛理は笑って、ようやく私の体を解放してくれた。

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