離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
タクシーに乗り込んでも、私はまだ落ち着かない気持ちでいた。私が黙り込んでいるのを、瑛理は不機嫌ととったようだ。別になんと思ってくれてもいい。
車窓を眺め嘆息する。

私の中には自分でも御しきれない気持ちがある。それはもう認めなければならない。
結婚は親の決め事だから? 
それぞれの兄姉のため?
いくら私だって、そこまで自己犠牲精神で生きていない。

押し込めた感情が息を吹き返し始めている。十代の頃、可能性がないと蓋をしてしまった気持ちが。

私はたぶん……瑛理のことが好きだ。

こっちのことなんかなんとも思ってなくて、私を軽んじている瑛理のことが好き。子どもの頃から、意地悪なのに目が離せなかった。
結婚を本気で拒否しなかったのも、形だけでも夫婦になれるのが嬉しかったのかもしれない。そして、夫婦になるなら瑛理は私を好きになってくれるかもと期待してしまっていた。

だけど、二十五年間私を意識するどころか男同士の友人の様な扱いをしてきた瑛理が、今更私を特別に見るはずがなかった。結婚が正式に決まってからも、こうして結婚しても、瑛理は瑛理のまま。言動も行動も一切の変化がない。案外、私の存在自体を面倒に思っているのかもしれない。

だから、私は自分自身も瑛理もこの結婚から解放したい。
同居をしないのはこれ以上瑛理に近づかないため。芽吹く気持ちをもう一度埋めるため。
瑛理だって、いつかわかってくれる。
興味のない相手に気を遣って、夫婦でい続けることの意味のなさを。合理的な瑛理は、この無駄を切り捨てる気になる。
今はまだ、体面や面倒ごとを連続させたくないだけだ。

私たちは離婚すべきだ。
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