離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
「俺とおまえの結婚は昔から決まっていた。確かに、親同士が決めたものだし、政略結婚みたいなものだよ。だけど、俺はおまえが納得して結婚したんだと思っていた。違うのか?」
「納得はしてる。だから、結婚式もした」

うつむき加減の顔をあげ、私は瑛理を見つめた。瑛理の整った顔立ちはこんなふうに険しくしかめられていても、綺麗だとしみじみ思った。

「でも私たち、お互いのことが好きじゃないでしょう」

瑛理が黙り、私は続けた。

「親の手前結婚はした。でも、私たちの意志じゃない。お互いの人生のため、いずれは離婚したいと思ってる」

しばらく沈黙が流れた。やがて、瑛理が険しい表情のまま答えた。

「俺は……了承できない」
「家のため?」
「……そうだ」

私は短く嘆息した。
瑛理がそう答えることも想定の中にはあった。だけど、思いの外頑なに見える表情に、今日の疲労がいっきに襲ってきた。

「話し合いはまた今度にしよう。先に休むね」

ソファから立ち上がり、隣の部屋のベッドの片方にどさりと転がった。ワンピースがしわになっても別にいい。
瑛理は黙っていたけれど、やがてバスルームへ行ってしまった。
遠くで響く水音を聞きながら私は目を閉じる。


今日、瑛理と結婚した。
私は一日でも早くこの婚姻関係を解消したいと思っている。
私たちはお互いが好きじゃなくて、この先も好きになれる見込みはないから。


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