離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
そもそも柊子本人が、俺との結婚を嫌がって離婚したがっていると知ったら兄はどう思うだろうか。

「まあ、連絡はしとく」
「うん、それがいい」

兄とはオフィスを出たところで別れた。
エントランスを出てメトロを使って自宅に帰りついた。柊子とは別居婚なので、俺もまだ築地の実家住まいだ。母は兄と父が会食で不在なのを知っていて、俺とふたりで食卓を囲む準備をしていた。

「柊子ちゃんも呼べばよかったわねぇ」

母までそんなことを言う。俺と柊子が円満だと信じて疑わないのだろう。

「柊子も忙しいから」
「そうよね。柊子ちゃん、職場でも頑張ってるみたいだし、邪魔できないわね。でも、早く新居を決めてあげないと。そういうことは夫であるあなたがリードしてあげないと駄目よ、瑛理」

俺ははいはいと聞き流し箸を手にした。まだ母が何か言う前に「煮物美味い」とか「明太子なかったっけ」などと夕飯の話題にシフトすることも忘れない。
柊子は別居婚を続け、いずれ離婚をと思っているようだが、この通り家族は別居状態の新婚夫婦を不自然に思っている。
柊子の考えは荒唐無稽で馬鹿げている。それを本人だけがわかっていないのだから困ったものだ。かといって強い言葉でたしなめれば、意固地な柊子は余計に俺に壁を立て、話を聞かなくなるだろう。

「新婚旅行も行かない、別居のまま。最近の若い人はわからないわあ」

せっかく話をそらしたのに、会話はめぐりめぐってまた俺と柊子の話にもどってしまう。俺は苦笑いで、また矛先を変える。

「姉貴たちだって新婚旅行は行ってないだろ」
「あの子たちは一年の半分オーストラリアじゃない。他にもアフリカやアジアにも仕事でちょくちょく行くんでしょう? 生活が旅行みたいなものだもの」
「忙しいって意味では、俺と柊子も一緒。柊子とは、ちゃんと話し合うから心配しなくていいよ」
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