離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
母はまだ眉をひそめて、納得していない様子である。
俺だって、柊子とはまっとうな夫婦関係になりたいと思っているし、その方向で説得したいと考えている。しかし、その進捗を話すわけにもいかないのだ。
食後、俺は自室に戻り音楽をかける。友人からのメールを返したり、仕事関係者からの個人的な連絡を返したりする作業に入る。人間関係は仕事でもプライベートでも大事にしている方だ。
スマホのメッセージのひとつに姉の美優からのものがあった。

『ファンデ届いた。ありがとう』

簡素なメッセージだ。先日、姉のお使いで限定コスメの購入を柊子に付き合ってもらった。その件だろう。

『どういたしまして』
『御礼にチョコレート送るね。日本で売ってないものだから』

メッセージを送るとすぐに返ってくる。時差は二時間、向こうものんびりしている時刻なのだろう。

『柊子ちゃんと食べて。住所は?』
『実家でいい。まだ同居してないから』
『いつから同居するの?』

未定だ。しかし、そのまま伝えて心配されるのも面倒くさい。

『近いうちには。今、少し忙しくて、新居を決めかねている。決まったら絶対連絡する』

こう言えば、姉は納得するだろう。姉はいい意味でも悪い意味でも素直だ。

『わかった。またね』

メッセージのあとに姉と義兄の礼さんの写真が添付された。たった今撮ったのだろう。ソファでワイングラスを手に寄り添っている写真だ。父親がオーストラリア人である礼さんの仕事の関係で、夫婦は世界中を飛び回る生活をしている。
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