離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
それでも俺は呑気なものだった。柊子は結婚を断らないだろうと見込み、大人になるまでに恋愛関係になればいいと考えた。時間はあるのだ。

一歩踏み出したのは高校二年のときだった。当時柊子はやはりボーイッシュな人気者で、男女ともにモテていた。焦りもあった。若い欲もあった。
俺は柊子を押し倒してしまったのだ。

ちょうど届け物があって、柊子がうちを訪ねてきた日だった。母親が帰るまで俺の部屋で漫画でも読もうと誘い、ベッドに並んで腰かけたあたりまでは俺も作戦どおりと思っていた。

『柊子』
『なあに』

漫画から目をあげない柊子の頬に触れた。驚いた柊子がぱっちりした目をさらに見開いて、こちらを見たのを覚えている。

『俺たちどうせ結婚するんだよな』

柊子が何か言いかけて言葉を失っている。その肩を押し、体重をかけ圧し掛かった。

『それなら、少しだけ先に進んでおこうぜ』

見下ろした柊子の顔は真っ赤だった。しかしそれが期待や嬉しさではないことはすぐにわかった。
大きな目が潤み、眉はひそめられている。唇がわなわなと震え、肩や手も小刻みに震えていた。
柊子は俺とそうなることなんて想像もしていなかったのだろう。急に俺の男の顔を見て、力で制されそうになり、震えている。

怖がらせてしまったのだ。俺は即座に彼女の上から退いた。

『なんちゃって。本気にした?』

柊子はしばし反応に悩んで無言だった。真っ赤な顔が百面相みたいに変化し、最後に湯気をたてんばかりに怒った顔になる。

『瑛理! からかったの!?』
『いや、どんな反応するかなーって。ごめん、さすがに冗談がすぎた』
『めちゃくちゃびっくりしたんだからね!』
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