離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
そう言って身体を起こした柊子の手がまだ震えていたのを俺は見逃さなかった。俺は柊子を怖がらせてしまった。冗談だったとわかっても、まだ身体が震えている。普段の彼女なら怒って叩いてくるのに、柊子は目をそらし文句だけを口にしている。

『怒るなって。あ、おまえの好きな紅茶淹れてきてやるよ。ほら、姉貴と選んでたやつ』
『そんなのでごまかされないからね。本当に最悪!』
『まあ、待ってろって。母さん秘蔵のマロングラッセもつけるから』

俺は居たたまれない空気から逃げるように部屋を出た。キッチンへ降り、紅茶を淹れながら思った。
柊子に軽々しく触れちゃいけない。触れていいのは柊子が俺を好きになってくれてから。そうしないと信頼関係すら失うぞ。

『望み、あるのかな』

この時点で、俺に気持ちがないのはよくわかった。俺はいよいよ、許嫁という関係に縋って柊子をものにしなければならないらしい。

『親とじいさんたちに感謝だな』

高二の俺は失恋に似た気持ちを覚え、胸を痛めた。


それから俺と柊子は健全な友人関係を維持してきた。別な大学に進み、それぞれの時間を過ごしながら月に一・二度、食事をしたり買い物をしたり。
俺は柊子と良好な関係性である自負があった。
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