離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
『わかった。待ち合わせて一緒に行こう。結婚のことも報告する』

こうして簡単に言いくるめることができるのだから、つくづく柊子は簡単な女だ。言い方は悪いがチョロい女だと言えるだろう。本来は、簡単に俺の可愛い妻にできるはずなのだ。

それなのに、変に真面目で馬鹿正直で頑固な柊子だから、俺のコミュニケーション分野の手練手管が通用しないこともしばしば。

いっそ好きだと言ってみようか。ひざまずいて、おまえに捨てられたくないと懇願してみようか。
……無理だ。俺のプライド的に無理。

いや、そもそもこの情けない作戦が通用する見込みなら迷わず実行する。しかし、現時点では到底無理だろう。柊子は俺のことをなんとも思っていないのだ。
そんな相手にすがられたら、情がわくどころか不快感や嫌悪感を覚えるに違いない。

それなら理論武装で戦おう。
柊子と俺は家のために結婚した。
結婚したからには夫婦として暮らすべきだ。
離婚は家族を落胆させるし、手間がかかって嫌だから避けたい。

「このあたりを説いて、どうにか離婚を思いとどまらせないと」

俺は呟いて、ベッドに転がった。


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