離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
「高校生にガキ大将って。さりげなく悪口だぞ」

柊子はティーカップのハンドルをつまみ、口元に運ぶ。今日の彼女はオフホワイトのワンピース姿だ。あの頃短くしていた髪は大学時代から肩くらいまで伸ばし、長めのボブにしている。もともとの顔立ちが綺麗なので化粧は最低限で充分だが、今日は同窓会ということもあり普段よりしっかりメイクしているように見える。
ほれぼれするくらい可愛い。しかし、そういった感想を口に出せたことはない。いや、結婚式のときに勇気を出して言ったけれど通じなかった。

「瑛理」

横顔を見つめていた自分に気づき、慌てて視線を逸らす。

「会場で、ずっと私といなくていいからね」
「わかってるよ」

同じクラスだったが、それぞれ親しい友人はいる。夫婦だからと寄り添っていたくない気持ちもわかる。

「何人か、親しかった連中に結婚の挨拶をするから、そのときは付き合えよ」
「わかった。声かけて」

結婚の挨拶という言葉で柊子の顔が硬くなった。柊子からすれば意に添わぬ結婚だ。
本当は言いたくないのだろう。しかし、二十五歳は花の盛りの妻に寄ってくる男たちは排除しなければならない。そのために俺は夫の権利を行使するつもりだ。

同窓会の会場は大きな宴会場だった。同じ学年の二百人ほどが集まる想定の会場で、豪華なシャンデリアに金糸銀糸の装飾の入った壁紙がレトロながらもセレブな空間演出だ。出席率はなかなかいいようで、多くの人で溢れている。見知った顔もすでに何人か視界に入っていた。

「志筑、久しぶりー」
「瑛理じゃん。えー、なんか昔より御曹司オーラ出てねぇ?」

親しかった男子たちが同じノリで話しかけてくる。

「いや、会社では平社員だよ。うちの親、下積みからやらせるんだ」
「平社員感ないな、おまえ」

笑いが起こる。俺は柊子に目配せして、彼女と離れた。
彼女は彼女で仲が良かった女友達と合流したようだ。

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