離婚却下、御曹司は政略妻を独占愛で絡めとる
「親が決めたことなの! 私たちは全然そういう感じじゃないんだけど!」

柊子が負けじと声を張る。そんなにはっきり否定するなよ、と思いつつ、俺も苦笑いをしつつ言い添える。

「幼馴染同士で、昔から結婚するように言われてたんだよ。な、柊子」
「そう! 本当に親の手前、仕方なくだから!」

柊子は強い口調で言う。まだ女友達が黄色い声をあげているからだろう。

「またまた、照れちゃって」
「考えてみれば、志筑も古賀も昔から仲良かったもんな。ただの幼馴染って感じじゃなかったし」
「わかる~。入れない感じがあったよね」

好き勝手に言う元クラスメートたちに、俺も悪い気はしない。そうだ、もっと言ってくれ。俺と柊子は昔からお似合いで、さらに結婚が決まっていた特別な仲なんだ。

「本当に違うの!」

しかし、水を差す柊子の声。

「私も瑛理も若いし、これから他に好きな人もできるかもしれないじゃない。そのときは、相談して離婚するつもり。友達みたいな関係だから、お互いの未来を優先できると思うんだよね」

俺は絶対に離婚に応じないけどな。
心の中で呟く。せっかく、みんなの前で結婚宣言をしているのに、当の柊子が全否定なのはいかがなものか。雰囲気をごまかし都合のいいようにするために、俺は柊子の肩を抱いた。

「まあ、それまでに子どもができちゃうかもしれないけど」
「ちょ、瑛理。冗談はやめ……」

柊子の引きつった顔と距離を取ろうと押してくる手に、若干傷つきながらも、俺も柊子を戒める手を緩めない。

「え~? でもさ、それなら俺が柊子ちゃんにアプローチしてもいいってことだよね」

祝福ムードの中、あえて空気を読まない口調で割り込んできたのは河東だ。俺は警戒から、いっそう柊子を抱く手に力を込める。
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