OL 万千湖さんのささやかなる野望



 雑誌の一ページのような部屋で目覚めた朝。

 爽やかに一杯の紅茶でも飲んで、と万千湖は思ったが、すぐにスマホの呼び出し音が激しく鳴る。

「あんた、今、何処っ?
 早く来なさいよっ。

 みんなもうマンションの下にいるのよっ」

 万千湖の母、浅海(あさみ)だった。

 ええっ? と時計を見ようとしたが、この部屋に時計はなかった。

「もう八時よっ」

 引っ越しは九時からですよ、お母さんっ、と思ったが、どのみち寝過ごしたことには違いない。

 ここから街まで四十分くらいかかるからだ。

 そうだ、課長は? と着替えて共有スペースに行くと、駿佑も慌てて出てくるところだった。

「すまん、寝過ごしたっ。
 マチカッ、早くしろっ」

 はいっ、と言いながら、ふたつ不思議に思うことがあった。
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