OL 万千湖さんのささやかなる野望
 


 ある日の夜、招待状の見本を見た駿佑の母から電話がかかってきた。

「この招待状、名前、間違ってるわよっ。
 万千湖になってるじゃない、マチカさんっ」

「……お義母さん、万千湖です」

 結婚が決まっても、今までとなにも変わらない、と思ってたけど。

 そういえば、美雪さんを時折、お義母さんと呼ぶようになったな、と万千湖は気づく。

 美雪は、
「あら、美雪でいいわよ」
と言うのだが。

 ついでに、
「孫にも美雪さんって呼ばせてよね」
とまだ生まれてもいない孫の話をされたりして。

 親たちの頭の中は、結婚の遥か先まで突っ走っているようなのだが、我々はそうでもないな、と万千湖は思っていた。

 プロポーズより、結婚より先に家が建ってしまったように。

 なにもかもが常に逆、というか。

 プロポーズされたのに。

 まったく付き合っている感じがしない。


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